『コンセプトはMA2室のサイズ、モニター環境を均一化すること』
スタジオ移転前のMA室は3階と地下1階と離れており、編集3室も個別にマシンルームを置くスタンドアローンでの運用が中心でした。それらのMA2室では、部屋の形状やルームアコースティック、モニタースピーカーの種類も違い、MA-1で続けていた作業をMA-2に移動させると印象が全く変わってしまいます。 そこで今回MA-1とMA-2のスタジオサイズや機能を揃えることが最も重要なコンセプトとなったのです。
旧社屋の既設機器と新規導入機器とが混在するなかで、2部屋の映像・音声のモニタリング環境の構築にあたり同一の機種を選定しています。ブッキングの関係で改訂作業が同一の部屋でできないことも多々あります。そのような場合に違う部屋でも違和感なく作業が進行できる事はスタジオやクライアントにとって大切なポイントとなります。特にメインスピーカーの選定はモニター環境を統一するうえで不可欠な要素の1つです。今回、環境スペース様は2つのスタジオを目標としていた数値で均一の音場空間を短期間で施工して頂きましたが、コンソールや調達家具の差異で生じる短期間の音響調整では追い込みきれない諸問題を解決するため、電気的に補正が可能なGENELEC社製のスピーカーシステムを採用しました。今回採用した1237Aの音場補正機能(Smart Active Monitor™(SAM™)システム)を用いることでMA2室のモニタリング環境を最適化することが出来ました。
今回1237Aはハードバッフルマウントによる熱対策とメンテナンスを考慮しアンプモジュール RAM-L ユニットを取り外し放熱処理を施したバッフル下部のEIAラックにマウントしました。 さらにアライメント調整を容易におこなえるようパッチベイにGML network端子を設けています。
コンソールの仕様などは異なるがスタジオサイズを同一とし、モニター機材構成も同一とすることでほぼ均一のモニター環境を得られています。これはエンジニア、クライアント共に非常に好評です。機材に関してはスタジオ内は可能な限りファンレスの構成としています。駆動音の発生するラックマウント機材をLABに集約することで暗騒音を低く抑えることが出来ました。
さらに、今回スタジオ移転に伴い編集6室MA2室が同一フロアでの運用に変わったことを受けて、編集/MAの連携を強化するため以下のシステムに変更しました。フロア中心にレイアウトされたLABにISIS5500x4 128TB(Media Composerなどのノンリニア編集/MA映像用ワーク作業エリア)と超高速ネットワークストレージのMITOMO MEDIA BUCKET Ctype 144TB(素材取り込み/ライブラリー音源/バックアップデータ保管)を中心としたサーバシステムを構築しました。また、MA2ではWaves社のプラグイン処理にDiGiGrid社「DLS」を採用し、大量のプラグインを使用した際のPCへの負荷の軽減を可能にしています。
編集上がりのMOVIEファイルやAAF/OMF/AES31等のAUDIOファイルの展開がスムーズに行えるようになり作業効率が飛躍的に上がりました。また編集、MA全ての部屋で信頼性と実績を考慮した結果IHSE社Draco KVMシステムを導入。システムの柔軟性は移転前とは比較にならないほど飛躍しMA室内ではミキサー、オペレーター、音響効果、ディレクターの作業スペースを自由に配置出来るようになった他、継続作業の移行もスムーズに行えスタジオの安定稼働が可能となりました。それに伴う恩恵はお客様へのサービスにも還元されていると思っています。
『明るく、清涼感があり、疲れないスタジオ』
MA1はFairlight社コンソールConstellationに因んで、オーストラリアの青空をイメージした水色に。 MA2はSSL社 C300HDに因んで心和むBritish Greenをイメージした緑色と、どちらも圧迫感を与えない柔らかい色合いとなっており明るく清涼感のあるスタジオに仕上がっています。 天井外周に配置された包み込むLEDとの相乗効果もあって、スタジオ全体を明るく穏やかに照らし長時間に及ぶ作業となっても目の疲れを感じる事がほとんど無くなりました。昔のスタジオでは暗い中こそ集中できるというスタンスでしたが、やはり使う側の身としては暗い中原稿を読むのは負担がありますので、今回は調光できるスタジオにしてもらいました。
『各位の発想・提案・実行力により非常に快適なスタジオに』
バス通りの為、資材搬入が深夜に限られ、商業フロアの為、天井裏に空調用の配管がひしめく場所にレイアウトされたMA2室を環境スペース様を始め関係業者各位の発想・提案・実行力により短期間で非常に快適で使いやすいスタジオに仕上げて頂いた事をスタッフ一同喜んでいます。
私自身としても仕事全般の疲労度がまるで半減したような印象です。スタジオのデザインだけでなく、立地条件など様々なものでMAスタッフ全員、来社される音響効果、制作の方もそうです。このスタジオで疲れたという声はまだ一言も聞いたことがないですね。
MA1はFairlight社コンソールConstellationを中心としたCC-1システムとPro Tools HDXをKVMスイッチによりFairlight/Pro ToolsどちらでもメインDAWに切り替える事が可能となっており、オペレーションの幅が大きく広がっている。
既に5年以上の稼働実績をもつFairlight CC-1システムを軸として情報、ドキュメンタリー、スポーツ、バラエティなどの番組やVPなどを中心に稼働させていく。
ブースはマイク2本での掛け合い収録が可能。
MA2はSSL社 C300HDコンソールと最大3台のPro ToolsのSatellite Link/Media ComposerのVideo Satellite構成が可能なドラマ作品対応の構成となっている。すでに多くのスタジオで稼働実績のある構成の為、オープンから4ヶ月が経過した現在、大きなトラブルもなく安定した運用が行えている。主にドラマを対象とした部屋となっており、マイク4本による座りで4人・立ちで7人程度が入ることの出来るブースを備えている為簡易な吹替などの用途にも対応可能な部屋となっている。
音だけでない感覚の目線を合わせること
お客様の希望に沿うだけでなく、お客様が現在どういった作業環境かを確認して、音だけでない感覚の目線を合わせる事が最も重要だと考えています。今回も施工に入る前に三友さんの旧社屋で地下スタジオを拝見し、音の響きや空間をイメージすることから始めました。率直に素晴らしく、歴史を感じ、気持ちが引き締まったのを覚えています。しかしそれを継承するだけでなく、現場の方へのヒアリングから、より明るく清潔感あるスタジオへ改善することも出来ました。音響設計については音源と騒音の確認、遮音性能の検証、低音域共振モードなどをチェックしていきます。ここはコストにも大きく影響する部分なので、事前に検証を重ねました。また、着工前には見えていなかったことが実際の動きの中で新たに見えてきますので、その都度柔軟に対応することも重要です。
以上が必ず取り入れているポイントです。実際に今回の案件では、事務所仕様のテナント状態から、毎週木曜日に関係者全員が集まって朝から昼頃まで定例会を開いて詰めてきました。やはり商業フロアでしたので施工前は配管がものすごい数天井を走っており、MA-1にも非常に大きなダクトがありました。実際この問題が定例会議の前半議論を占めました。欲しい位置に壁が立たず、よけて天井を組んでも下がってしまう。途中MA-1を小さくするという案もあったのですが、それでは安原様の言うMA2室の均一化というコンセプトともズレてしまいます。実際には野村不動産パートナーズ様が短い工期の中調整対応いただいたことで、サイズ、デザインともにお客様の要望に沿うスタジオとなりました。
今回は先述の通り、約2ヶ月という工期間や資材搬入などの制約もありましたが、三友さんの方で既に練られたPLANとご要望が明確だったことや、フォトロン様のプロジェクトマネジメントが的確だったお陰で、スムーズに進行出来たと考えています。
本スタジオで特に自慢したいポイントを挙げるとすれば
先ほどの工期を実現するため、モニタースピーカーのバッフル下地をプレカットし、スピード施工が実現出来たことですね。工程が非常にタイトだからこそ工程短縮の工夫に繋がりました。結果的に精度、強度とも高い良いバッフルになっています。
もう一つはスタジオ外のサイネージサインです。各スタジオ/編集室の機能をカラーで分けている三友さんのイメージをうまく具現化できたと思います。全体的にシンプルなデザインの中、見栄えがするポイントです。
スタジオ設計において最も大切にしていることはなんですか?
お客様を含め、専門家達の技術をディレクションすることです。スタジオはそれぞれのプロが集まってできる仕事。我々は建築音響のプロですが、毎日スタジオで編集作業をしているクライアントの感覚の鋭さや、システムデザイナーの音響機材の知識など、プロの意見を素直に聞き、技術をうまくディレクションすることが良いスタジオ、お客様の満足に繋がると考えています。

今回の機器の導入は三友様はもちろんの事、ワイヤリングを担当された株式会社レアルソニード様(http://www.realsonido.co.jp)との綿密な協力関係無しには完遂出来ませんでした。Farilight Constellation、SSL C300HDに対し、HDXシステムとVideo Satelliteシステム更にWAVES DLS等の機器間の親和性を保持するために、PCのOS及び各機器のVer.のマッチングに様々なクリアすべき課題がありました。また営業的側面ではありますが、昨年は為替の変動が激しく、輸入機器の販売価格の変動が進行中の随所であり、その都度関係者間で迅速な対応が求められ、全体像がフィックスする前に部分的にシステムが確定した時もありました。ただ三友様の当初の機器構成の希望が明確だった事と前述の綿密な関係性が功を奏し、結果的には当初の予定通りの内容でシステム構成が完成出来ました。