1991年にイギリスで創立されたスピーカーメーカーのPMC(The Professional Monitor Company Limited)。PMCを特徴づけるのはベース・ローディング・テクノロジー「トランスミッション・ライン」。すべてのPMC製品には、独自に開発されたATL™(Advanced Transmission Line)が採用され、これまでに世界中の多くのレコーディング・スタジオや放送局で採用されてきましたが、あえて形容するなら「確かな耳を持った高いレベルのサウンドエンジニアが信頼するブランド」。それがPMCのイメージでしょう。
ここにきて、そんなPMCから「twotwoシリーズ」、「Reault6」といったニアフィールドの製品が発売されてきましたが、この動きは「スタジオ高級ブランドがプライベートスタジオに降りてきた」。そんな印象を持ちました。そのあたりの真相を確かめるべく、来日したCEOのTim Ireland氏、Business Development ManagerのChris Allen氏にお話をお伺いしました。
核になる「Advanced Transmission Line」
Rock oN : Rock oNにようこそ! まず簡単な自己紹介をお願いします。
Tim Ireland氏 :(上の写真右) 私はPMCのCEO、Tim Irelandです。CEOになって9ヶ月ですが、これまで20年以上に渡りオーディオ業界の経験があり、PMCの前はOrange Amps(https://orangeamps.com/)に在籍していました。これまでのキャリアでは世界中を旅し、エンドユーザーと実際に会い、現場の声に接してきました。
Chris Allen氏 :(上の写真左) 私はPMCでプロ部門のBusiness Development ManagerをしているChris Allenです。今まで13年間、ずっとプロ音響機器の現場で仕事をしてきました。前職はPrism Soundで、AD/DAコンバーターを中心にセールスの仕事に携わっていました。2015年からPMCに移り、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカといった海外のセールス担当をしています。
Rock oN :今回の来日の目的をお聞かせください。
Tim Ireland氏 :目的の1つは、去年から日本の代理店になったオタリテック株式会社との関係をより深めることです。もう1つの目的は日本のマーケットの現場を視察することです。明日は日本のサウンドエンジニアさんたちをお招きし、私たちのアクティブ・ラージ・スタジオ・モニター「QB1-A」をお披露目し、実際に聞いていただきご意見を伺う予定です。日本には音楽産業のしっかりとした歴史がありますし、若い人々が音楽に対して情熱を持っている国だと思います。日本は私たちにとって重要なマーケットです。
Chris Allen氏 :加えて私は日本のラーメンが大好きなので、今回の来日の楽しみの1つにしてます(笑)。
Rock oN :オタリテックさんは高田馬場に近いので、いいラーメンスポットがありそうですね(笑)。さて、PMCはこれまで、スタジオなどを中心としたプロフェッショナルな現場で評価されてきたハイエンド的なイメージがありますが、先日のニアフィールドモニターであるResult6の発売、そしてオタリテック株式会社が日本の代理店になったことを契機に、ここ日本ではクリエーターやミュージシャンといった個人にも近い存在になってきたと思います。改めて、PMCのサウンドに対する哲学をお聞かせいただけませんか?
Tim Ireland氏 : BB5のような大きなサイズのスピーカーはもちろんのこと、twotwo.5のような小さなサイズでも変わらない音、そしていかなる環境にも左右されない音作りを目指す。その核になっているのが”Advanced Transmission Line (ATL)”の採用です。私たちPMCは、Transmission Line型で筐体をつくっている唯一のプロ機器メーカーであり、オーソリティーであることに誇りを持っています。
オールハンドメイドによるシビアなクオリティチェック
Chris Allen氏 : そして組み立てを英国国内で職人によるハンドメイドで行なっています。組み立てた職人が箱詰めし、最後に自分のサインを行うまで徹底して行なっているんです。測定に関しても測定器を使わずに、一個一個、耳でチェックしており、どの製品をペアで出荷するかのチェックまでも行なってるんですよ。これは創業以来、変わらずやってきていることです。
Rock oN : それはかなりシビアなプロセスですね。
Tim Ireland氏 : PMCにおける品質管理のバラツキ誤差は2%におさえられ、これは一般的な工業製品の基準をかなり下回っています。生産時に作ったパーツや基盤全てを記録しており、例えば、製品が出荷してから20年経って故障したとしても、その製品のシリアル番号を照らし合わせれば、どんな材料を使って組み立てられたが判るんです。
Chris Allen氏 : 私たちの工場には約30人の職人がいますが、例えば、PMCが自信をもって昔から採用し続けている75mmのスコーカー。これは必ず、手塗りの工程をなんども繰り返し、1基作るのに1週間かけています。さらにコイルの部分も、磁石を入れると重量が10kgくらいになりますが、手巻きで丁寧にコイルを巻いてるんです。
Tim Ireland氏 : 職人の中に、ジャッキーとマリアというベテランのエキスパートがいるんですが(組み立て風景の写真を見ながら)、彼女はセレブとも言うべき人で(笑)、彼女しかできない熟練された技術を持っていて、私たちにとってとても重要な人物なんですよ。まさにドライバ職人ですね。
Rock oN : では、twotwoシリーズやResult6のようなアクティブタイプのニアフィールド製品へのアプローチを決めたきっかけや経緯についてお伺いできますか?
Chris Allen氏 : ニアフィールドとしてフラグシップになるtwotwoシリーズにはtwotwo.5、twotwo.6、twotwo.8と3つのモデルがあります。ドライバー応答、クロスオーバー、EQを制御するDSPを搭載し、デジタル信号処理とアクティブ・アンプと組み合わせた多機能な2ウェイ・リファレンスモニターです。一方、市場からはDSP搭載でなくシンプルなアナログ製品を望む声もあり、その要望に応える形で発売したのがResult6です。Result6には入力部にレベル・トリムがあるだけのシンプルな構成になっています。
Tim Ireland氏 : 東京と同じくロンドンも人口が集中する大都市で住宅事情はあまりよくないのですが、twotwoシリーズやResult6はホームスタジオを中心としたクリエータにとっても最適なサイズのラインナップですし、大きなスタジオを持っているけどツアーなどで外部を回るようなクリエーターのセカンドモニターとしてもいいソリューションです。一般的に「PMC=高級感あるスピーカー」というイメージがあるかもしれませんが、ニアフィールドのマーケットへのアプローチとして、Basement Jaxxといった有名アーティストへのエンドースメントやAFROJACKよるリミックスコンテストの開催などを通じ、新たな動きを行っています。
Rock oN :PMCの製品は北米でのセールスが大きいそうですね。
Chris Allen氏 : はい、私たちPMCの名前はアメリカで広く認知されており、彼らが言うには「PMCを車に例えるならロールスロイスだ」と言ってくれます。その信頼あるブランドのスピーカーがより低価格で買える、ということでtwotwoシリーズやResult6がアメリカのマーケットに歓迎されているんです。「すごく早く走る車だけど、同時に、極めて安全に運転できる」そういった感覚かもしれないですね。
Rock oN :じゃあ最後に、日本のユーザーにメッセージをお願いします。
Tim Ireland氏 : PMCはいい音を提供しますので、みなさん、いい音楽を作ってください!